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東京高等裁判所 平成3年(行ケ)255号 判決

千葉県茂原市新小轡826番地

原告

鈴木荘六

東京都千代田区霞が関三丁目4番3号

被告

特許庁長官

深沢亘

同指定代理人通商産業技官

和田靖也

松木禎夫

通商産業事務官 廣田米男

主文

本件訴えを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者が求める裁判

1  原告

「特許庁が平成1年審判第14735号事件について平成3年8月29日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決

第2  原告の請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

訴外株式会社壽鉄工所(後に「コトブキテクレツクス株式会社」と商号変更。以下「訴外会社」という。)は、昭和60年12月27日、名称を「固液分離方法」とする発明(後に「ダブルカントデカンタによる3相分離装置」と補正。以下「本願発明」という。)について特許出願(昭和60年特許願第293191号)をし、昭和63年4月14日特許出願公告(昭和63年特許出願公告第17502号)されたが、特許異議の申立てがあり、平成元年4月17日拒絶査定がなされたので、同年9月27日ころ査定不服の審判を請求し、平成1年審判第14735号事件として審理された結果、平成3年8月29日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決がなされ、その謄本は同年9月30日原告に送達された。

原告は、平成3年10月26日、訴外会社から、本願発明の特許を受ける権利を譲り受けた。ただし、本件訴訟の口頭弁論終結時に至るまで、上記権利の承継の事実を特許庁長官に対し届け出ていない。

2  本願発明の要旨(別紙図面参照)

液体中に重液と軽液を含み、かつ、重液より重い固体が共存する液体を、

円筒部と、これに連続する傾斜部より成るボウル内面に僅かな隙間によって装着されたスクリユーとを、高速回転させることによって重液・軽液及び固形分の3相に分離するスクリユー型固液分離装置において、

固形分排出用のボウルテーパー部の角度を、大径側円筒部に接する部分を最も急勾配とし、液面又は液面直下に角度変更点を設け、ボウル小径側のボウルテーパーを緩やかにすることによって、ケーキの排出安定性とボウル有効面積の増加を図り、

ボウルテーパー部の反対側の端部内面近くに重液排出口を、液面近くに軽液排出口を設け、固形物は上記ボウルテーパー部の先端部から排出されるように構成されること

を特徴とする、固液分離装置

3  審決の理由の要点は、本願発明は、その出願前に日本国内において頒布された昭和49年特許出願公告第7540号公報(以下「引用例1」という。)及び昭和54年特許出願公告第2409号公報(以下「引用例2」という。)に記載されている発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

4  原告主張の審決取消事由は、要するに、審決は、引用例1あるいは引用例2の記載から何故ダブルカウントボウルの3相分離への適用の可能性が示唆されるのか、本願発明が奏する作用効果が何故容易に予測されるのか、全く説示することなく、本願発明は上記各引用例記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとしたものであって、違法であるから、その取消しを求める、というものである。

第3  請求の原因の認否、及び、被告の主張

1  請求の原因1ないし3は、認める。

2  同4は、争う。審決の認定及び判断は正当であって、審決には原告が主張するような誤りはない。

第4  証拠関係

証拠関係は、本件訴訟記録中の書証目録記載のとおりであるから、同目録をここに引用する。

理由

1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、2(本願発明の要旨)及び3(審決の理由の要点)は、当事者間に争いがない。

2  特許法第178条第2項は、審決に対する訴は当事者、参加人又は当該審判に参加を申請してその申請を拒否された者に限り提起し得る旨を規定している。しかるに、当事者間に争いがない上記事実によれば、査定不服の審判請求は訴外会社によってなされ、審決は訴外会社を名宛人としてなされたにもかかわらず(ただし、審決には、審判請求人の名称は、訴外会社の変更前の商号である「株式会社壽鉄工所」と記載されている。)、この審決に対する本件審決取消訴訟は、訴外会社によって提起されなかったことが明らかである。そして、原告が、本件査定不服の審判手続に参加し、又は、参加を申請してその申請を拒否されたことを認めるに足りる証拠もないから、本件訴訟は、特許法第178条第2項が規定する原告適格を有する者によって提起されたものではない。

なお、原告は、本願発明の特許出願後である平成3年10月26日に訴外会社から本願発明の特許を受ける権利を譲り受けたことをもって、本件訴訟における原告適格を根拠付けようとしている。しかしながら、特許法第34条第4項によれば、特許出願後における特許を受ける権利の承継は、相続その他の一般承継の場合を除き、特許庁長官に届け出なければその効力を生じない。しかるに、訴外会社が審決取消訴訟を提起すべき期間内はもとより、本件訴訟の口頭弁論終結時に至るまで上記権利の承継の事実を特許庁長官に対し届け出ていないことは原告の自認するところであるし、訴外会社から原告に対する権利の承継が一般承継によるものであり得ないことはいうまでもない。したがって、本件訴訟は、審決の名宛人から特許を受ける権利を譲り受けたことを有効に主張し得えず、したがって原告適格を有しない者の提起に係るものであって、やはり不適法といわねばならない。

3  よって、本件訴訟は不適法なものであるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 春日民雄 裁判官 佐藤修市)

別紙図面

〈省略〉

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